ビト ン長 財布 偽物
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null などと野暮なことは庄九郎はいわない。ぴしっ、と音の鳴るような固い貌《かお》である。  だまっている。  中庭からの陽《ひ》ざしが、骨ばった半顔をくっきりと照らし、ひざは袴《はかま》の折り目のままに端座している。 「…………」  と、お万阿はこまった。この男と対座していると間がもてないのである。  つい、こちらが多弁になる。ならざるをえぬように松波庄九郎は仕むけているのであろうか。 「京での御用はなんでございます」 「用か」  庄九郎は、お万阿の眼を射るように見、その視線をはなさず、 「そなたを抱くためさ」  といった。  お万阿は、陽射しの中で狼狽《ろうばい》した。庄九郎はさらにいった。 「有馬の湯では、狐を抱こうとした。が、狐ではいやじゃ。抱こうなら、真正のお万阿殿をそなたの閨《ねや》にて抱きたい」 (あの)  お万阿は、自分がどんな顔をしているのかもわからない。ただ、体だけが庄九郎の眼前にさらけ出ている。その体が、すでに突き貫かれたとおなじ衝動をもった。 「今夜、閨で待つように」 「そ、そのかわり」  お万阿は、自分の唇が、もう意思の統制をはなれてとんでもないことを口走っていることに気づかない。