收藏

prada l字ファスナー長財布編集

 佐伯はキッチンをみたままでささやいた。 「見憶えがあるのか」  塩谷の声が緊張した。 「なるほど、のっぽだな」 「ええ」 「出て行くぞ。こっちに気がついてた様子か」 「いいえ」 「よし、出よう」  塩谷はさっと立ちあがった。佐伯も細長い伝票をつかんであとを追う。 「俺はさきに出る。払いをすませてついてこい」  塩谷は命令口調で言い、佐伯が入口の女に伝票を渡すまで、ちょっとキッチンの前で立ちどまってから、すぐ戸をあけて出ていった。  支払いに一分もかからなかった。佐伯もすぐにあとを追う。  通路を出ると、ちょうどガード下の出口を塩谷が右へ曲がって消えるところだった。佐伯は足早につづいた。暗いガード下へとびだすと、塩谷はアメ横を左へ、御徒町駅方向へ曲がろうとしていた。わずかに手を振って、余り近寄るなと合図した。  事件のあった晩と逆に、佐伯はだいぶ灯りの減りはじめたその裏通りを、塩谷の二十メートルほどあとから、御徒町駅へ向かって進んだ。塩谷の前方には、高いのと低いのと、ふたつのうしろ姿が並んでいた。  高いほうが先夜の犯人だという確証はなかった。だが、どうもそんな気がした。低いほうはびっこを引いていた。右足が悪いらしい。何か話しながら、のんびりと歩いているようだった。  塩谷が急に歩度を早めた。どんどん早くして、二人に追いつこうとしている。二人は右に折れる気配を示していた。そこを曲がれば、不忍池《しのばずのいけ》ぞいに来る道と、上野公園からおりてくる道の交差点へ出るはずだった。  塩谷はその角のところでさりげなく二人を追い抜いた。顔を見る気だろう。佐伯は彼の動きにつられて思わず早くなっていた足を、気をしずめて元の歩度に戻した。塩谷は顔を知られていないが、彼は知られている可能性があった。  二人が表通りへ出たので佐伯は少し距離をつめた。二人は左へ曲がり、横断歩道のところで立ちどまっていた。向こう側へ渡る気らしい。十二、三人がそのまわりで信号を待っており、塩谷は二人のすぐうしろについて、腕時計を眺めたりしていた。話声のきこえる近さだった。
表示ラベル: