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 詩織は慌てて「木下」の腕から逃れ、立ち上がると、衣服についた枯れ草や土と一緒に、彼の感触を払い落とした。  いくら顔を背けようとしても、目はいやでも事故現場に引きつけられた。  夢であってほしい——と願ったけれど、赤いロードスターの無残な情景はそのままになっていた。浅見の死体には青いビニールシートが被せられて、それがせめてもの救いではあった。しかし、それは同時に、詩織の希望を打ち砕いた。 「浅見さんは、やっぱり……」  川根にすがるように、訊いた。  川根は何ともいいようのない、複雑な表情をして、例の「木下」に視線を向けた。 「あなたの言っているのは、あのシートの下の人のことですか? 彼だったら、即死だったそうですよ」  川根は言って、すぐに「ただし、彼は浅見さんではありませんけどね」と付け加えた。 「えっ、違うのですか?」  詩織の胸に、また希望の灯がともった。 「ええ、あそこで死んだのは、下川健一《しもかわけんいち》という男です」 「そうなんですか……でも、あの車は私のロードスターみたいでしたけど……それに、あのジャケットも——」 「そうですな、たしかにあの車はあなたの車のはずです」 「えっ、じゃあ、どうして?……浅見さんはどうしちゃったんですか?」 「うーん……その説明はご本人にしてもらうしかありませんなあ」  川根は言って、隣にいる例の男を見た。  詩織もつられるように、長身の男の顔を見上げた。  男は照れたように白い歯を見せて、ペコリとお辞儀をしてから、言った。
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