收藏

ルイヴィトンネヴァーフルmmダミエ編集

(あの子が真っすぐにおれの顔を見る時が一つの目標だ)  耕作はそうも思うようになった。 「さあ、今日は綴り方の勉強だ。みんな綴り方は好きか」  みんな黙っている。打てばひびくような声はなかなか返ってこない。 「好きな者は手を上げなさい」  手が三本上がった。 「なあんだ、みんな綴り方が嫌いなんだな。先生も小さい時は嫌いだったなあ」  耕作が言うと、子供たちは顔を見合わせてくすっと笑った。 「へえー、先生でも嫌いな勉強あったのかい」  牛崎友雄が言った。どこか同級生だった松井二郎に似てひょうきんだ。 「そりゃあ、あったさ」 「どうして嫌いだったの」 「うん、いい質問だな、牛崎」  耕作はほめて、 「先生もな、実は今、みんなに、どうして綴り方が嫌いかと、聞こうと思ったところだ」  生徒たちは無邪気に笑った。安心したような笑顔だ。耕作は、生徒たちに笑いを起こさせることが、導入の第一だと心得ている。生徒たちの心がひらくからだ。心がひらくと言葉が素直に入って行く。 「ほんとうに、どうして綴り方が嫌いか、先生に教えてくれないか」  ぱらぱらと七、八人の手が上がった。
表示ラベル: