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null 隅田は何気なく一人の女に眼を留めた。その女は右手の通りから足早やに出て来て道路を横切ろうとしていた。あたりは勤めをおえた女達で|溢《あふ》れていたが、その女はひときわ目立って見えた。純白の中国服を着て滑るような歩き方をしていた。|太《ふと》|腿《もも》のあたりまでスリットの入った中国服は、歩くたびつやのある脚線をちらつかせたが、それがひどく清潔な感じで、同じように派手に粧った女達の中で、まるで人種が違うように思えた。  白い中国服の女は車のひしめく通りでちょっと立ちどまり、左右を見まわした。 「比沙子……」  隅田は一瞬息をのんだ。髪をアップにしたその顔はすぐに反対側へ向けられ、車の間を縫って向う側へ着くと、道ばたに停っていた黒い自家用車のドアをあけて中へすべり込んだ。ドアをあけたときもう一度顔が見えた。 「比沙子」  口の中で叫んだ隅田が追いはじめたとき、その車は坂の下へ向けて走り去ってしまった。よく似ていた……隅田はぼんやりとたたずんでいた。      8  翌日は土曜日だった。朝から会議があって席を外していた隅田賢也は、昼近くにかなり不快な気分で戻って来た。会議の内容はたいしたことではなかったが、集まった六人の設計課長と四人の営業課長の内の半数までが、隅田の発言にあからさまな批判の態度を示したからだった。  社内の空気が日を追って隅田の不利な方向に変化していた。|羨《せん》|望《ぼう》は冷笑に変りやすい。若手社員の積極派に支持されて、そのリーダー格で異例の昇進を重ねた隅田は、いま経験を積んだ常識派の巻き返しの矢おもてに立たされはじめたようだった。  |椅《い》|子《す》に|坐《すわ》るまで気づかなかったが、隅田を待っていたらしい会沢がひょっこり部下の机の間から立ちあがってやって来た。 「渋い顔をして……」  そう言って四角ばった浅黒い肌に笑みを浮べた。 「何だ、来ていたのか」 「小一時間ほど油を売らせてもらったよ」