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 高次は万次郎がさまざまな仕事をしているのに驚かされた。 「蝦夷ケ島の海には鯨もおる。高次は一番丸で北上して捕鯨をやり、その帰り船に馬鈴薯を積んでくれば商いになる」 「蝦夷ケ島の捕鯨と馬鈴薯ですか。それはおもしろい。ぜひわしにやらせてくだされ」  アメリカ大陸がコロンブスによって発見されてから、南アメリカ大陸からさまざまな品物がヨーロッパに持ち帰られた。貴族が喜んだのは黄金と宝石類だったが、民衆が喜んだのが馬鈴薯だった。アンデス高地が原産地で痩《や》せた土でも育つ馬鈴薯は、たちまちヨーロッパ中に広まり、フランスやドイツをはじめとする飢餓で苦しんでいたヨーロッパ大陸の人口が、二倍になったほどである。西洋の軍隊が馬鈴薯を軍用食に携帯していることも万次郎は知っていた。  廉蔵が口をはさんだ。 「一番丸は古い船です。小笠原諸島への航海は危険がありましょうが、蝦夷ケ島であれば東北の陸伝いに航海ができます。古い一番丸でお金を稼いで、つぎは高次さんの手で大きな捕鯨船を造ってください」 「わしはやりますぞ」  高次は体に力がみなぎってくるのを感じた。  万次郎が書棚から一冊の本を取り出した。 「高次よ。このアメリカの航海書をやるから、よく読んで西洋航海術を学ぶがよい」  万次郎が差し出したのが、航海者の聖典とされるボウディチ著の『新アメリカ航海士必携』の翻訳書であった。安政二年(一八五五)に万次郎は幕府から命じられて、アメリカとヨーロッパ諸国の船乗りが愛読するボウディチの名著の翻訳をはじめた。英語辞典もないときに、万次郎が二年間心血を注いで、やっと完成させた貴重な航海書であった。  そのとき三十歳だった万次郎は、翻訳の苦労のために髪が真っ白になり、実際の年齢より老けて見られるようになってしまった。そうして仕上げた『新アメリカ航海士必携』は、単に航海術にとどまらず、造船法から非常時の船の修理技術まで、船を率いる上級航海者にとって、すべてに役立つ海の名著といえた。 「高次はこれから日本の海を背負って立つ男じゃ。そのためにもこの航海書をよく学んでおくがよい。かならず役に立つ日がくる」 「このような大切な書物を、このわしに……礼の言葉もありませぬ」  高次は万次郎に深々と頭を下げた。  廉蔵が出資した一番丸の半官半民の捕鯨事業を、幕府の内部事情で一方的に中止したために、勝を通じて進言した高次の一番丸での蝦夷ケ島行きは、軍艦操練所に籍を置いたまま行ける許しが得られた。  喜びに胸を弾ませた高次は、まっさきに大助と佐太次に報告した。
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