草間彌生ビトン
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null「そう来なくちゃ人間はいけないのよ。そうよ、銭湯ってのは町の宝よ。銭湯を潰《つぶ》すような町はろくな町じゃありゃしない。東京の人間も、ここんところみんな自分のうちにお風呂を持っちゃって、堕落しちゃったからねえ。あたし、ますますこの人が気に入っちゃった」  もうしんみりするどころではなかった。     13 「所長、送って行きなさい」  清子が帰りそうな気配を示すと、となりの婆さんが断固として命令した。 「浅草までちゃんと送らなかったら承知しないから」  清子は何度もそれを辞退したが、下町はその気になっていた。 「いいですよ。送って行きますよ」 「あとのことは引き受けたから、ゆっくり行ってらっしゃい」  婆さんは下町が立ちあがると、彼のデスクへ入れかわりに坐って言った。 「本当に結構ですから」 「いいじゃないですか」  下町はコートを着て自分の傘を手にした。 「何ならあたしが付添いに」