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 葉子がその出まかせを信用したかどうかは判らない。だが、彼女が宇佐見の甘いマスクと、やさしげな人柄と、金放れのよさに気を惹《ひ》かれたのは事実だった。  宇佐見が店に通いはじめて四日目に、葉子は自分から、閉店後に二人きりで食事をしたい、と言い出した。彼女の目的が食事だけではないことが、ことばや表情に表われていた。宇佐見はしかし、食事だけをつき合って別れた。浮気が女房にばれるのが怖い、といったふりを宇佐見はしてみせたのだ。  宇佐見の駈引《かけひ》きは成功した。拒まれて葉子は逆にそそられたようすだった。指名が一週間つづいた末に、葉子はふたたび宇佐見に閉店後の食事をねだり、食事の席で、マンションまで送ってほしい、とせがんだ。 「じゃあ、ちょっと女房に連絡してくるよ」  宇佐見は言って、食事の席を立った。 「そんなに奥さんのことが気になる?」  葉子はいたずらっぽい眼で宇佐見をにらみつけた。 「門限に遅れそうなのでね」  宇佐見はけろりとした顔で言って見せた。葉子は呆《あき》れた、といったふうに、笑った顔で、大仰《おおぎよう》に眼を吊りあげた。彼女は恐妻家の医者の卵で、ピンクキャバレーが好きという、二枚目の男を誘惑することを、おもしろがっているようすだった。  宇佐見は店のレジのカウンターにある電話を使った。電話の相手は仲間の原だった。原は毎晩のように、四谷の堂本法律事務所に待機して、宇佐見からの連絡を待っていたのだ。宇佐見は電話で、これから葉子を送って高円寺のマンションに行く、とだけ言った。原はオーケーとだけ答えた。それだけで二人の電話は終った。  テーブルにもどった宇佐見は、ゆっくりと食事をつづけて、時間を稼いだ。  深夜営業の焼肉屋を出て、タクシーを拾い、葉子の住むマンションに着いたときは、午前二時だった。マンションの前の道に、原の乗ってきた車が停まっていた。宇佐見はさりげなくそれに眼を留めて、葉子の肩を抱き、マンションの玄関に入った。  すぐうしろから、停めてあった車から降りてきた原が、玄関を入ってきた。三人が前後して、エレベーターに乗った。宇佐見も原も見知らぬ同士のように振舞った。 「今村葉子さんだろう? あんた……」  原が眼を据《す》えた顔で葉子に言った。エレベーターが動き出したとたんだった。原はクリーム色のスーツに紺のワイシャツ、黄色いネクタイ、といった服装だった。どう見ても堅気の商売には見えない。原にだしぬけに声をかけられて、葉子が一瞬、顔をこわばらせた。返事はしない。 「この人、今村葉子さんでしょう?」  原は宇佐見に言った。 「きみ、失礼だろう。人に名前を訊《き》くのなら、まず自分が先に名乗ったらどうなんだ」
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