ルイヴィトンエピノワールジッピー
null
null ベンツの助手席のドアが、外から閉められた。ガレージの明りがつけられた。ベンツは向きを変え、バックでガレージに入っていった。長峰は望遠鏡で、堀越栄一の横顔をしっかりと捉えた。  ベンツはガレージに入った。ガレージの入口に立っていた男が、外からシャッターをおろした。男はそのまま、木戸のような門を押して、中に入っていった。  長峰は待ちつづけた。行動を起すのは夜中と決めていた。寝込みを襲うつもりだった。  堀越は、中川治の通夜に顔を出して帰ってきたところかもしれない、と長峰は考えた。長峰はその日は、新聞もテレビも見ていなかった。ニュースは知らなくても、青梅市の津田病院の三階の個室の病室で、中川治の絞殺《こうさつ》死体がすでに発見されていることは、疑いようがなかった。その殺人事件の捜査のなりゆきは、まったく長峰の関心を惹《ひ》かなかった。まもなくすべてが終る、といった思いが長峰の胸を満たしていた。すべてが終るといった思いの前では、青梅市の殺人事件のニュースなど、とるにたりないことだった。  旭道青年塾の明りがすっかり消えたのは、午前零時過ぎだった。その三十分後に、長峰は、車から外に出た。  手にしていたのは、木刀だけだった。ナイフは刃をだした状態で、ズボンのベルトの腰のところにはさんだ。有刺鉄線で囲まれた敷地の中に入った。  玄関のドアはロックされていた。長峰は足音を殺して、建物のまわりを一周した。塾頭室があるという、建物の右端には、窓があった。窓にはアルミの雨戸が引かれていた。忍びこめそうな場所は、どこにもなかった。  ガレージの庭からの出入口のドアには、鍵がかかっていなかった。長峰はガレージの中に忍びこんだ。最悪の場合は、レンタカーのカローラを使うつもりでいたのだが、ベンツがあればこれに越したことはなかった。  ベンツのドアはロックされていた。ガレージの隅《すみ》の石油缶の上に、大きな工具箱が置いてあった。長峰はそれを開けた。中にモンキースパナがあった。中にウェスも突っこまれていた。長峰は、ウェスをスパナの先に巻きつけ、それでベンツの運転席の窓ガラスを叩きはじめた。  急がなかった。大きな物音を立てたくはなかった。間《ま》を置いて、窓のガラスを叩きつづけた。ウェスが音を弱めてくれた。ガラスに亀裂が走り、それが少しずつひろがっていった。穴が開いた。そこから腕をさし込んで、長峰はドアのロックをはずした。  つぎにガレージのシャッターを開けた。音がひびかないように、それも時間をかけて少しずつ上げていった。ベンツが通るところまで上げた。  長峰はベンツの運転席にもぐりこんだ。木刀は助手席に置いた。イグニッションの電気回路を直結にした。長峰が物音を気にしたのはそこまでだった。  ベンツのエンジンが始動した。長峰はベンツをガレージから出した。前の道でベンツの向きを変えた。塾の明りがつくようすはなかった。  長峰はハンドルを切りながら、アクセルを踏みこんでいった。ベンツは塾の門に向けられた。長峰はギアをセカンドレンジに入れて、アクセルを思い切り踏んだ。  粗末な門扉《もんぴ》が、ボール紙のように吹っ飛んだ。玄関のドアが、見るまにベンツのフロントガラスに迫ってきた。長峰は唸《うな》り声をあげた。アクセルは踏んだままだった。ハンドルをにぎったまま、両腕を強く伸ばして、背中をシートに押しつけた。  衝撃が来た。思ったほど強い衝撃ではなかった。はげしい物音とともに、玄関のドアがはじけとんだ。その後に強いショックが襲ってきた。ベンツのエンジンが停まった。ベンツの鼻先は、玄関の上り口に突っ込んでいた。奥で怒声があがった。ベンツのライトの中で、埃《ほこり》が舞い上がっていた。  長峰は木刀をつかみ、ベンツからとび出した。廊下が明るくなった。明りがつけられた。長峰は廊下を右に進んだ。男が二人とび出してきた。 「なんだ! てめえ」